この記事では、遺産分割によって不動産を取得した場合の相続登記の申請義務と、それに関連して相続人申告登記について解説しています。
最近は相続登記義務化に関する記事を書いてますが、今回は「ここが相続登記義務の山だ!」と思って、すこし力を入れて書いてみました。
長くなってしまいましたが、よかったら読んでください。
- 1.遺産分割で不動産を取得した場合は申請義務がある!
- 2.法定相続分による相続登記をする前に、遺産分割による相続登記をする場合
- 3.法定相続分による相続登記をした後に、遺産分割による相続登記をする場合
- 4.相続人申告登記をした後に、遺産分割による相続登記を申請する場合
- 5.遺産分割により不動産を取得した場合の相続登記の申請義務のまとめ
1.遺産分割で不動産を取得した場合は申請義務がある!
(1)遺産分割による相続登記が重要
法定相続分とはその名の通り法律で定められた相続分であり、法定相続分による相続登記をしても法律で定められた相続分が登記されただけであり、それは所有者不明土地の問題を解消するという観点における相続登記における最終地点ではなく、むしろ重要なのは遺産分割を成立させてその結果に基づいて相続登記の申請することです。
相続人が複数いる場合には、法定相続分による相続登記がされても、相続人全員が不動産の所有権登記名義人となり、そのままの状態で次の代に相続によって承継されていくと所有者登記名義人の相続人がどんどん増えていってしまいます。遺産分割によって不動産の所有者を集約することは、そのような状態を防止することにより、所有者不明土地の問題の解消につながるので、遺産分割の結果を登記に反映させることが求められると考えられるのです。
また、令和3年の民法改正により相続開始から10年経過後は遺産分割において特別受益や寄与分を考慮することができない(民法904条の3)という時限的制限を設けたことは、遺産分割を早期に成立させて、遺産分割による相続登記を促進することが目的の1つになっているといえるでしょう。
(2)場面に応じて遺産分割による相続登記を申請するパターンが複数ある
遺産分割によって不動産を取得した場合に、申請義務が課せられるのは、次の3つのパターンが考えられます。
2.法定相続分による相続登記をする前に、遺産分割による相続登記をする場合
法定相続分による相続登記を申請する前に遺産分割が成立した場合は、不動産を取得した相続人が単独で「相続」を原因する所有権移転登記を申請することができます(法定相続分による所有権移転登記を経る必要はありません。)。
この場合は、遺産分割の時から3年以内に相続登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2第1項)*1。
なお、この義務は相続人申告登記の申出をしても、登記の申請義務を果たしたとみなされることはありません(不動産登記法76条の3第2項括弧書)。相続人申告登記の申出により、申請義務を果たしたとすると、遺産分割の結果を登記に反映させるという趣旨を没却してしまうからです。
3.法定相続分による相続登記をした後に、遺産分割による相続登記をする場合
(1)法定相続分による相続登記をした後に、遺産分割が成立した場合
法定相続分による相続登記をした後に遺産分割が成立した場合は、遺産分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した相続人は、遺産分割の時から3年以内に相続登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2第2項)。
申請義務は、法定相続分を超えて所有権を取得した相続人のみに課されるという点に注意が必要です。すでに法定相続分による登記はされているので、法定相続分は登記に反映されているので、法定相続分を超える所有権を取得した相続人のみに申請義務を課せば良いとされています。
(2)所有権更正登記を単独申請することができる
なお、この場合の法定相続分を超える所有権を取得した相続人による単独申請によって、「遺産分割」を原因とする所有権更正登記を申請することが可能です(令和5年3月28日民二第538号局長通達)。相続登記義務化される前は、遺産分割によって不動産を取得した相続人とその他の相続人による共同申請によって、「遺産分割」を原因とする所有権移転登記を申請する必要がありました。遺産分割による所有権移転登記の義務を実効的にするべく、申請人の負担をかるくするため、登記実務を変更し単独申請を可能としました*2。また、所有権移転登記だけでなく、所有権更正登記も可能として登録免許税の負担を軽減しました*3。
(3)所有権移転登記をする場合
このように所有権更正登記の方が所有権移転登記よりもメリットがあるので、所有権更正登記を申請することになると考えられますが、以下のような場合は所有権移転登記をすることになります。法定相続人がAとBで法定相続分による所有権移転登記がされた後に、Bの債権者がBの持分を目的として差押の登記をした場合に、A・B間の遺産分割によりAが不動産を取得した場合に、遺産分割による所有権更正登記を申請するには登記上の利害関係人であるBの債権者の承諾が必要になります。そのため、債権者の承諾が得られないような場合は、所有権移転登記をするメリットがあります。
4.相続人申告登記をした後に、遺産分割による相続登記を申請する場合
(1)相続人申告登記とは?
相続人間で揉めていて遺産分割協議が成立するのに時間がかかる場合においては、いったん法定相続分による相続登記をするという方法があります。しかし、相続登記には戸除籍謄本などを集める膨大な手間がかかる上に登録免許税も納める必要があるにもかかわらず、その後に遺産分割による登記を申請するのは二度手間であり相続人にとって大きな負担になります。
そこで、相続人申告登記という制度を新たに設けました。相続人申告登記は法定相続分を登記せず、相続人の氏名・住所を登記するだけの簡易なものなので戸除籍謄本の収集の負担が相続登記と比べると非常に楽になっています*4。また、相続人申告登記の申出の登録免許税はかかりません。
相続人申告登記の申出をした場合は、相続登記の申請義務を履行したものとみなされます(不動産登記法76条の3第2項)。この申出があったときは、登記官の職権で、その旨の並びに申出した者の氏名・住所等が、所有権の登記に付記されます(同条第3項)。
(2)相続人申告登記の申出をした後に、遺産分割が成立した場合
相続人申告登記の申出をした後に、遺産分割が成立したは遺産分割の時から3年以内に相続登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2第4項)。
この時の申請義務は、相続人申告登記の申出をした者に課されます。相続人申告登記では法定相続分が登記されていませんので、法定相続分を超えて所有権を取得したかに否かに関わらず、相続人申告登記の申出をした者が申請人になる必要があるからです。この点は、法定相続分による相続登記をした後に遺産分割による相続登記をする場合と異なるので、注意が必要です。
5.遺産分割により不動産を取得した場合の相続登記の申請義務のまとめ
まとめると以下の通りになります。
法定相続分による登記前に遺産分割成立 | 法定相続分による登記後に遺産分割成立 | 相続人申告登記の申出後に遺産分割成立 | |
---|---|---|---|
申請義務を負う者 | 遺産分割により不動産を取得した者 | 法定相続分を超えて所有権を取得した者 | 相続人申告登記の申出をした者 |
申請期間 | 遺産分割から3年以内 | ||
登記の内容 | 相続を原因とする所有権移転登記 | 遺産分割を原因とする所有権更正登記 | 相続を原因とする所有権移転登記 |
申請構造 | 単独申請 |
*1:76条の2第1項では、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日」から3年以内としているので、少し考え方が難しいです。遺産分割により「所有権を取得した日」つまり遺産分割の日から3年と考えるようです。なお、遺産分割により不動産を取得しなかった相続人は、相続開始によりいったん相続登記の申請義務を負うが、遺産分割により「所有権を取得した」という要件を欠くので、結局申請義務を負わなかったと考えるようです。
*2:共同申請の場合は、申請書又は委任状に他の相続人が記名押印し、作成後3カ月以内の印鑑証明書を添付する必要があります。また、登記識別情報の提供も必要です。
一方、単独申請の場合は、他の相続人は申請人にならないので、申請書又は委任状に記名押印は不要で、遺産分割協議書に押印して印鑑証明書(作成後3カ月以内である必要はない)を添付することになります。また、登記識別情報の提供は不要です。
*3:遺産分割を原因とする所有権移転登記の場合は、不動産価格(固定資産税評価額)の1000分の4。一方、所有権更正登記の場合は、不動産1個につき1000円でよいので、更正登記の方が登録免許税の負担が軽い。
*4:相続登記の場合は、相続分の割合も登記するので、申請人が相続人であるというだけでなく、申請人以外に相続人がいないということを証明する必要があります。したがって、被相続人の死亡から出生(出生時までではなく、生殖年齢である13歳歳程度まで遡れば良いともいわれている)までさかのぼって戸除籍謄本等を収集する必要があります。
一方、相続人申告登記は相続分は登記せず、相続人の氏名・住所を登記するだけなので、申出人が相続人であるということを証明するだけで足ります。具体的には、申告人が配偶者や子の場合は、配偶者や子の現在の戸籍謄抄本(被相続人の氏名が記載されているもの)のみで足りることになります。