前回に引き続き、消費者法の分野に関する制度でクーリングオフについて解説します。
クーリングオフは、訪問販売など特定の取引に関して消費者が一定の期間内であれば無条件に契約を解除することができる制度です。
民法上は、契約を効力を否定するためには、一定の理由が必要になります。
契約するにあたって消費者に錯誤があった場合(民法95条)や、詐欺によって契約してした場合(民法96条)は、消費者は契約を取り消すことができます。
また、買った商品やサービスに不良など問題があった場合にも、契約を解除することができます(民法541・542・564条)。
クーリングオフの対象となる取引
一方、特定商取引法では、特定の取引に限って消費者を特に保護する観点から一定の理由がなくても、契約を解除することができる場合があります。
それが、クーリングオフ制度です。
特定の取引とは、以下の6つの取引です。
取引 | 期間 | 具体例 | その他 |
---|---|---|---|
訪問販売 | 8日間 | 商品の販売、自宅の修繕など | 過量販売規制 |
電話勧誘販売 | 8日間 | 知人を装うなどして電話で親しげに勧誘 | 過量販売規制 |
特定継続約務提供 | 8日間 | 英会話・パソコン教室など | 中途解約権 |
訪問購入 | 8日間 | 貴金属の買取など | |
連鎖販売取引 | 20日間 | マルチ商法など | 中途解約権 |
業務提供誘因販売取引 | 20日間 | 内職に必要な物を販売など |
このような取引は、消費者が自らお店に行って商品を購入する場合などと異なり、突然勧誘される場合はが多く、消費者が十分に契約をするかどうかを判断する機会が与えられないので、詐欺や商品の不良などのような理由がなくても無条件に契約を解除することができます。
訪問販売としては、突然業者が自宅に来て商品を売りつけるなど以外にも、路上で街頭で突然声をかけ路地裏・店舗などに勧誘して商品を売るキャッチセールスも含みます。また、最近は自宅にリフォーム業者が突然やって来て、屋根を点検してリフォームが必要だと迫り、高額な工事費用を請求するケースが問題になっていて、このようなケースも訪問販売に該当するので、クーリングオフが可能な場合があります。
長期継続的なサービスの提供のなかでも特にトラブルの原因となりやすい以下の7つに関しては、特定継続約務提供としてクーリングオフの対象としています。なお、契約期間が2か月を超えるもの(エステティックと美容医療のみ1か月を超えるもの)、支払う代金が5万円以上のものが対象になります。
- エステティック
- 美容医療
- 語学教室
- 家庭教師
- 学習塾
- パソコン教室
- 結婚相手紹介サービス
クーリングオフの規定は強行規定なので、事業者と消費者の間でクーリングオフを認めないとする合意があっても、その合意は無効です。
一方、ネット通販で購入した場合はクーリングオフの対象ではありません。
ただし、返品権というものが認められています(特商法15条の3)。
クーリングオフできる期間
クーリングオフをするには、一定の期間内に行使する必要があります。
クーリングオフは無条件に契約を解除できる反面、以上のような短い期間が設定されています。
これらの期間は、契約に関する書面を受け取った日から起算します。書面が交付されない場合や交付された書面に不備がある場合は、クーリングオフの期間は起算せず、後日適切に書面が交付されて初めて期間が起算されます。
この期間には、書面を受領した日も含みます(民法140条の初日不算入の原則と違う)。例えば、訪問販売(8日間)の場合は、4月1日に書面を受領した場合は、8日までクーリングオフできるが、9日になるとできません。
クーリングオフの行使方法
クーリングオフは、行使ができる期間内に書面又は電磁的記録により行使する必要があります。
クーリングオフの書面等には、契約年月日・契約者名・商品名・契約金額・クーリングオフを通知した日などを記載します。
後日の紛争を防止するために記録を残しておくことが大事です。書面の場合は内容証明郵便でする、電磁的記録による場合は送信したメール等のスクリーンショットを保存しておくことが望ましいです。
クーリングオフ後の効果
クーリングオフによって解除した場合は、当事者はお互いに原状回復義務を負います。
商品を購入している場合は返品する必要があります。
この場合の、送料等の返品費用は事業者が負担することになります。
また、事業者は消費者に対して損害賠償や違約金の請求はできません。
クーリングオフ以外の解約方法
クーリングオフ以外にも契約を解除できる場合があります。
過量販売規制
過量販売とは、特に高齢者などを対象に到底必要でない大量の商品を売りつける悪質な業者がやっている行為を言います。
訪問販売と電話勧誘販売を対象に、勧誘販売に関する契約は解除することができるとされています。
解除期間は、契約締結後1年間とされています。
中途解約権
サービスによっては一度加入しても、加入する前に想像していたものと違うという場合があるので、途中で解約することが認められます。
連鎖販売取引と特定継続約務提供を対象に、中途解約権が認められています。
中途解約した場合は、将来に向かって契約の効力が消滅します。