今回は、委任における受任者の委任者に対する代弁済請求権と、委任者による相殺の可否について勉強します。
1.受任者の委任者に対する代弁済請求権
以前の記事*1でも書きましたが、委任契約において受任者に代理権が授与される場合と授与されない場合があります。
以下の事例で考えてみましょう。
【事例】
A(委任者)がB(受任者)に高級腕時計を買って来ることを委任した。依頼されたBは、高級時計販売店Cから高級腕時計を500万円で購入した。
(1)代理権ありパターン
代理権の授与ありの場合は、BとCの売買契約の効果が直接Aに帰属するので(Aは契約の当事者になる)、Aが腕時計の購入代金の債務を負うことになります。よって、CはAに対して500万円の支払を請求することになります。
(2)代理権なしパターン
一方、代理権がない場合は、Bが契約の当事者なので、Bが代金債務を負います。よって、CはBに対して500万円の支払を請求することになります。
この場合は、受任者Bは自ら代金500万を支払い、その後に委任者Aに対して立替えた代金(プラス利息も)を請求することが可能です(650条1項)。
しかし、AとBの内部関係においては、購入代金500万円は本来Aが負担するべきものです。そこで、受任者Bは委任者Aに対して「Cと腕時計の契約をしておいたから、Cに代金500万円を支払っておいてくれ」と請求することができます(650条2項前段)。

これを代弁済請求権(代弁済)といいます。
なお、代金の弁済期に無い場合は、委任者Aに相当の担保を提供させることができます(650条2項後段)。弁済期までに委任者が無資力となるリスクから、受任者を保護しています。
条文も確認しておきます。 ※1項も掲載していますが、今回特に取り上げたかったのが2項なので、1項は薄い文字にしています。
(受任者による費用等の償還請求等)
第六百五十条1 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3 省略
【ところで・・・???】
話が錯綜しますが、ここまでの話の流れだと、代理権の無い委任のみ代弁済請求権が発生するかのようにも理解できますが、恐らくそうとも言えなさそうです。確かに、売買代金だと、代理権の有無により委任者が債務を負担するのか・受任者が負担するのか代わってくるので、代理権の無い委任のみ売買代金に関する代弁済請求権が発生するといってもよさそうです。一方、売買代金以外の費用(取引場所までの交通費や滞在費など)は代理権があっても受任者の名義で負担することがありそうなので、代理権の有無にかかわらず代弁済請求権が発生すると思います。しかし、それらの費用はサービスの提供と同時又は事前に弁済する場合が多いので、代弁済請求権(650条2項)ではなく、費用償還請求権(650条1項)の問題になるケースが多いといえるのかもしれません。?????
2.委任者による相殺の可否
そして、受任者による代弁済請求権と、委任者が受任者に対して有している債権を相殺することができるか、という問題があります。
【事例】
AはBに対して500万円の金銭債権を有していた。
A(委任者)がB(受任者)に高級腕時計を買って来ることを委任した。依頼されたBは、高級時計販売店Cから高級腕時計を500万円で購入した。
Aは、AのBに対する500万円の金銭債権と、BのAに対する500万円の代弁済請求権を相殺することができるか?

判例は、委任者からの相殺を許していません(受任者からの相殺は可能とする高裁判決があるみたいです)。
受任者が民法650条2項前段に基づいて有する代弁済請求権に対しては、委任者は、受任者に対する債権をもつて相殺することはできない(最判昭47・12・22)。
判例がこのような結論を取る理由として、主に2つの理由があるようです。
1つ目は、民法505条では相殺の要件の1つとして「同種の目的を有する債務(債権)を負担する場合」としています。委任者が受任者に対して有する債権は通常の金銭債権である一方、受任者が委任者に対して有する代弁済請求権は受任者が第三者に対して有する債務を免れさせることを目的とする特殊な債権です。よって、2つの債権は「同種の目的を有する債権」ということはできないので、相殺の要件を満たさないという点です。
2つ目は、委任者からの相殺を認めることは、受任者に対して立替払いを強要することになることを理由としています。つまり、本来であれば受任者は、立替えた後に償還請求するか(650条1項)、代弁済請求するか(650条2項)、選択することができます。それにもかかわらず、委任者からの相殺を認めてしまうと、受任者の委任者に対する債務は消滅するが、代弁済請求権も消滅してしまい、受任者の第三者に対する債務は残ったままになります。結果として、受任者Bは委任者Aに対して「Cに代金を払っておいてくれ」と言えなくなるので、受任者は自己の資金で第三者に弁済しなければならず、これが立替払いの強要になります。
*1:委任契約をしても代理権が生じない場合もあるし、委任契約以外(請負・雇用など)でも代理権が生じる場合がある。law-study.hatenadiary.jp