民法では、一定の年齢に達していないとできない行為などがあります。また、意思能力・行為能力・責任能力・事理弁識能力など混同しやすい概念もあります。
それらについてまとめました。
簡単にまとめると以下の通りになります。
- 権利能力は出生によって認められる。ただし、相続・遺贈・損害賠償請求については、胎児の時点で認められる
- 意思能力は7~10歳ぐらい、行為能力は18歳
- 不法行為に関連する責任能力は12歳ぐらい、事理弁識能力は6歳ぐらい
- 遺言など親族・相続に関連することは15歳からが多い
- 養親になるには20歳から、特別養子縁組の養親は原則25歳
- 権利能力(0歳)
- 意思能力(7~10歳以上)
- 行為能力(18歳以上)
- 責任能力(12歳前後以上)
- 事理弁識能力(6歳前後以上)
- 婚姻(18歳以上)
- 親の同意を得ずに氏の変更できる(15歳以上)
- 養親になる(20歳以上)
- 親の同意を得ないで養子になれる(15歳以上)
- 特別養子縁組で養親になる(25歳以上)
- 特別養子縁組で養子になる(15歳未満)
- 遺言ができる能力(15歳以上)
権利能力(0歳)
権利能力とは、私法上の権利・義務の主体になることができる能力です。権利能力があると契約の主体になり、売買をしたりして、物を所有することができます。
権利能力は出生によって認められます(3条)。
ただし例外があり、以下の権利に関しては胎児の時点で既に生まれたものとみなされます。
- 不法行為を理由とする損害賠償(721条)
- 相続(886条)
- 遺贈(965条)
例えば、子が出生前の胎児の時点で、父が死亡した場合、子は既に生まれたものとみなされるので、父の財産を相続することができます。
意思能力(7~10歳以上)
出生によって、権利・義務の主体になることができるといっても、幼齢や認知症などで自分のしている行為の意味を理解できない者がした行為は、そのまま有効とすることは問題があります。
そのような本人を保護する観点から、意思表示をした時に意思能力を欠いていた場合は、その法律行為は無効とされています(3条)。
意思能力を有するかどうかは、個別具体的に判断されることになります。一般的には、7~10歳以上の者の能力とされています。
行為能力(18歳以上)
意思能力があるかは客観的に判断することができず、基準も明確ではありません。それにもかかわらず、意思能力を有していない場合の法律行為を無効とすると、取引相手にとって不測の不利益を及ぼす可能性があります。そこで、有効に法律行為をすることができる客観的で明確な基準が必要です。そこで、行為能力という制度があります。
行為能力とは、単独で有効な法律行為をすることができる能力をいいます。未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人には行為能力はありません。
民法4条では、18歳で成年とするとされて、行為能力を有することになります。成人年齢は以前は20歳以上でしたが、2022年4月から18歳以上になりました。
18歳以上になると、親権者などの同意を得ることなく、単独で有効な法律行為をすることができるようになるので、クレジットカードやローンの契約なども親の同意は不要になります。
なお、未成年者でも以下の行為に関しては、例外的に単独で有効な法律行為をすることができます。
- 単に権利を得、又は義務を免れる法律行為(ex.贈与をされる)
- 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産を、その目的の範囲内の処分(ex.教科書を買うためのお金をもらい、書店で買う)
- 目的を定めないで処分を許した財産を処分(ex.おこずかいを使って買い物をする)
- 一種または数種の営業を許された場合の、その営業に関する行為(ex.駄菓子屋の営業を親から許された場合に、駄菓子の仕入れ・販売、店舗用不動産の賃貸などができる)
責任能力(12歳前後以上)
責任能力は、自己の行為の責任を弁識する能力をいいます。未成年者が、この判断能力がない場合は、不法行為による損害賠償責任を負いません(712条)。この場合は、監督義務者が原則責任を負います(714条)。
責任能力のない者の損害賠償責任を否定して保護している理由は、過失責任主義からの要請であるとか、若年者を政策的な観点から特別に保護するものであるとか、色々説明されているようです。責任能力の有無の判断は個別的にされますが、12歳前後で備わるとされています。
責任能力がない場合としては、未成年者以外に精神上の障害により、自己の行為の責任を弁識する能力を欠く場合があります(713条)。
なお、刑法上の責任能力は14歳以上です(刑法41条)。
事理弁識能力(6歳前後以上)
不法行為において、被害者に過失があった場合に賠償額を減額することを、過失相殺といいます。過失相殺では、被害者の過失が問題になるので、被害者に責任を問えるだけの能力があるか問題になりますが、先ほど責任能力までは必要ではないが、責任能力よりも低い能力は必要とされています。それが事理弁識能力と呼ばれるものです。
事理弁識能力の有無の判断も個別的にされますが、6歳前後で備わるとされているようです。
婚姻(18歳以上)
婚姻は18歳以上ですることができます(731条)。以前は、男子は18歳以上・女子は16歳以上でしたが、2022年の成人年齢引き下げに合わせて、18歳に統一されました。
親の同意を得ずに氏の変更できる(15歳以上)
子は父母の双方又は一方と氏を異にする場合に、一定の場合の要件を満たす時は、父母の氏を称するために氏を変更することができます(791条1・2項)。
この変更は、15歳以上であれば法定代理人の同意なしですることができます。15歳未満であれば法定代理人が子に代わって行います(791条3項)。
養親になる(20歳以上)
養子縁組で養親になるには20歳以上である必要があります(792条)。以前は「成年に達した者」とされていましたが、成人年齢引下げの際に他人の子を育てるという責任の重さから、成人年齢に統一することをせず20歳という要件は維持するため「20歳に達して者」に条文を改めました。
親の同意を得ないで養子になれる(15歳以上)
15歳以上であれば法定代理人の同意を得ないで、養子縁組において養子になることができます。
15歳未満の場合は、法定代理人が子に変わって縁組の承諾をします。これを代諾縁組といいます(797条1項)。
特別養子縁組で養親になる(25歳以上)
特別養子縁組は養子縁組のなかでも、実の親と子の親族関係を断ち、実の親子関係に近い養子関係を築く制度です。養親は配偶者のあるものでないといけないなどの要件があります。
養親の年齢に関しては、原則25歳以上である必要があります。ただし、養親になる夫婦の一方が25歳以上であれば、もう一方は20歳以上で良いとされています(817条)。
特別養子縁組で養子になる(15歳未満)
一方、特別養子縁組の養子の年齢に関しては原則15歳未満である必要があります(817条1項)。例外的に、養子となる者が15歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合において、15歳に達するまでに特別養子縁組の審判の請求がされなかったことについてやむを得ない事由があるときは、15歳以上でも良いとしています(817条2項)。なお、以前は原則6歳未満とされていましたが、2019年の民法改正(2020年4月施行)で原則15歳未満に変更しています。
また、特別養子縁組が成立するときまでに18歳に達している場合もすることができません。
遺言ができる能力(15歳以上)
遺言をする時点において15歳以上の者は、親などの同意を得ることなく、遺言をすることができます(961条)。行為能力は18歳以上でしたが、遺言に関しては本人の意思を尊重する観点から、15歳以上になっています。
一方、生前贈与・死因贈与は行為能力の規定があり、18歳以上です。