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平成30年の民法(相続法)改正のポイントをザックリまとめてみた

平成30年の民法改正は、高齢化や家族の在り方の多様化などの社会環境の変化に対応するため相続法に関する分野を改正しました。高齢の配偶者を保護するために配偶者居住権・配偶者短期居住権の新設、自筆証書遺言の活用を促進するため自筆証書遺言の方式の緩和や自筆証書遺言を法務局で保管する制度の新設など、その改正は広範に及びます。

今回は、平成30年の民法(相続法)改正についてザックリ・テキトーにまとめました。

 

配偶者居住権・配偶者短期居住権

配偶者の居住を確保するために、配偶者居住権・配偶者短期居住権を新設しました。配偶者居住権は長期間を想定していて原則配偶者が亡くなるまで認められます。配偶者短期居住権は短期間を想定していています。

配偶者居住権

一般的に不動産の評価額は高額になる傾向があり、配偶者と子で遺産分割する場合は、配偶者が被相続人と居住していた住居を相続し、子が預貯金を相続し、配偶者は住居を確保できても生活の資金が確保できないという問題が生じてしまいます。

そこで改正法は、配偶者居住権という使用・収益に限定した権利を新たに新設しました。配偶者居住権は所有権より評価額の低いので、これにより配偶者は預貯金等も相続することができます。

配偶者居住権の主なポイントは

  • 成立要件は、①被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた、②遺産分割・遺贈・死因贈与で取得する(特定財産承継遺言では認められない)
  • 使用だけでなく、収益も可能(1032条1項)
  • 相続開始前に居住していなかった部分についても、居住の用に供することができる(1032条1項但書)
  • 譲渡は認められない(1032条2項)
  • 建物の増築・改築、第三者に使用・収益させるためには建物取得者の承諾が必要(1032条3項)
  • 配偶者の死亡により消滅する(1030条)
  • 対抗要件を備えるために、建物の取得者に登記の設定を請求できる(1031条)

また改正法では、「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する」との規定を新たに設けました(903条4項)。よって、配偶者居住権が遺贈・死因贈与された場合は持戻し免除の推定がされる場合があります

配偶者短期居住権

被相続人の死亡により、配偶者が被相続人と居住していた建物から直ちに退去しないといけないとなると、配偶者にとって大きな負担になります。配偶者が高齢の場合はさらに顕著になります。

そこで改正法は、一時的に配偶者が無償で居住することができる配偶者短期居住権を新設しました。

配偶者短期居住権の主なポイントは

  • 成立要件は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた(配偶者居住権のように遺産分割・遺贈などによることなく当然に発生する)
  • 認められる期間は2パターンあり、(1)居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合は遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日 、(2)(1)以外の場合は建物取得者による配偶者短期居住権の消滅の申入れの日から6箇月を経過する日
  • 収益はできない※配偶者居住権と違う
  • 相続開始前に使用していなかった部分の、使用は認められない※配偶者居住権と違う
  • 譲渡はできない※配偶者居住権と同じ
  • 三者に使用させるためには、建物取得者の承諾が必要
  • 登記はできない※配偶者居住権と違う

自筆証書遺言に関するの見直し

自筆証書遺言の利用の促進を促すために自筆証書遺言の要件を緩和し、また法務局で保管する制度を新設しました。

  • 自筆証書遺言について遺言作成者の負担を軽減するため、財産目録については自筆によることを要しないとした(パソコンで作成、他人による代筆などが可能になった)。また、偽造防止の観点から目録の毎葉に署名・押印を要するとした(968条2項)
  • 自筆証書遺言の偽造・紛失を防止する目的で、法務局に遺言書を保管する制度を新設した。自筆証書遺言は原則検認が必要だが、法務局で保管された自筆遺言証書は検認が不要になる(遺言書保管法11条)

権利の承継と対抗要件に関する見直し

改正前は、相続分の指定特定財産承継遺言(改正前は相続させる旨の遺言と呼んでいいた)により法定相続分を超える分を相続した場合について、対抗要件は不要とする判例がありました。しかし、遺言の内容は第三者にはわからないので、対抗要件を必要とすべきでないかと指摘されていました。

そこで、899条の2では「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」として、相続分の指定や特定財産承継遺言により法定相続分を超える分を相続した場合についても、対抗要件を要するとしました。

遺言執行者の規定の見直し

遺言執行者の法的地位や権限について不明確な部分があったので、明確化するため遺言執行者に関する規定を見直した。

  • 旧1015条の「遺言執行者は相続人の代理人とみなす」という規定を改め「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」とし、1012条1項で「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」とし、遺言者の意思と相続人の利益が対立する場合は、遺言者の意思を実現するために職務を執行すればよい旨を明確化した
  • 特定遺贈であるか包括遺贈であるかを問わず、遺言執行者がある場合は、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができるとした(1012条2項)
  • 特定財産承継遺言によって法定相続分を超える相続分を相続した場合は対抗要件を要するとした(899条1項)の関係で、特定財産承継遺言がされた場合に、遺言執行者に対抗要件を具備するための権限を付与した(1014条2項)
  • 遺言執行者の復任権について、旧法はやむを得ない事由がなければ第三者にその任務を行わせることができないとしていた。しかし、①遺言執行者は法定代理人に性格が近いこと②復任者の選任について遺言者の同意を得ることができない(すでに死亡しているので)ことを理由に、遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるとした(1016条1項)

預貯金の払い戻しに関する規定の新設

共同相続人間の公平な遺産分割を実現するために、預貯金債権は遺産分割の対象になるとした平成28年の最高裁により、共同相続人間の1人が単独で遺産分割の前に預貯金について払戻しをすることはできなくりました。そうすると、葬儀費用や被相続人から不要を受けていた相続人の当面の生活費など緊急に要する費用に対応することが難しくなります。

そこで、民法では一定の金額に限定して裁判所の関与なしに預貯金を払戻しできる制度を新設しました(民法900条の2)。一定の金額は、預貯金額×3分の1×払戻しを請求する法定相続人の法定相続分です。この金額には、一金融機関ごとに法務省令(150万円)で定める額が上限になります。

また、家事事件手続法による遺産分割の本案事件を本案とする保全処分について「急迫の危険を防止するため必要があるとき」という厳しい要件を課していたが(家事事件手続法200条2項)、預貯金債権については一定の場合に要件を緩和する規定を追加しました(同条3項)。こちらに関しては、裁判所での手続きが必要だが、民法のような金額の限定がないのでより大きな資金需要に対応できます。

遺産分割に関する見直し

一部分割を認めることを明記

相続財産に預貯金のように金額が確定しているものがある一方、不法行為による損害賠償請求権のように権利関係や金額が確定していないものがある場合に、相続財産の一部を先行して遺産分割するメリットがあります。しかし、一部分割が認められるか条文で明記されていなかったので、907条1項で一部分割が認められる旨が明記されました。

遺産分割前に相続財産が処分された場合の対応

遺産分割前に共同相続人の1人が相続財産を処分した場合に関する規定が旧法では条文に明記されていませんでした。実務では、処分された財産を除いた遺産分割時に存在する財産のみを遺産分割の対象にするという扱いがされていて、共同相続人間で不公平が生じる可能性がありました。

そこで改正法は、処分をした相続人以外の全員の同意により、処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができるとしました(906条の2第1・2項)。

遺留分に関する見直し

旧法では遺留分の権利行使にかんしては、遺留分減殺請求権と呼んで物権的な効力を有するとしていました。遺留分減殺請求を行使すると、遺留分を侵害する限度において、遺留分を侵害する贈与・遺贈は無効であるとされていました。この場合に、贈与・遺贈の一部が無効とされると、贈与・遺贈の対象となった不動産が受贈者・受遺者と遺留分権利者の共有となって紛争の原因になるなど問題が指摘されていました。

そこで、改正法は遺留分侵害額請求権として、受贈者・受遺者に対して遺留分を侵害された金額の請求をできるとして、物権的効力から金銭債権にその法的性質を変更しました(1046条1項)。

その他のポイント

  • 遺留分侵害額請求権が行使された場合に、裁判所は受贈者・受遺者の請求により相当の期限の許与をできるとすることができるとした(1047条5項)
  • 遺留分算定の基礎財産に算入される相続人に対する贈与について、相続開始前10年前に限るとする規定を新設した(1044条3項)

特別寄与制度の新設

相続人が生前に被相続人の療養看護などして相続人の財産に特別の寄与をした場合は、遺産分割において寄与分が認められるが、被相続人以外の者が特別の寄与をしても相続財産から分配を受けることはできません。被相続人の子の配偶者が生前に被相続人を献身的に介護するなどしたにもかかわらず、何らかの利益も享受できないのは公平に反するといえます。

そこで被相続人以外の親族が、被相続人に特別の寄与をした場合は、相続人に対して金銭の支払いを請求することができるとする制度を新設しました(1050条)。

主なポイントは

  • 相続人以外の親族(相続人は不可、親族以外も不可なので内縁の配偶者もダメ)
  • 相続放棄した者、欠格事由に該当した者、廃除された者も不可
  • 相続人に対して、無償で療養看護その他の労務提供をしたことにより、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合に認める